silossowski

こんにちはシロソウスキー

女装した話

友人に誘われて女装バー的な場所に行ってきて、そこで女装をしてきた。これまで自室でなら女物の服を着るということはあったのだけれど、人前で女装したことはなかったので、新たな体験であった。

いままでもそういう場所に興味はあったのだけれど、化粧をしたことが無くて、そもそも化粧のやり方も知らないから、女を装うこともできないであろうという判断と、そういう場に出て知らない人と上手く会話したり、なんかいやな要求されたときにもキチンと断る勇気がありそうもなかったので、行くに行けなかったというか、敷居が高かった。

しかしそれを友人に誘われて行くことになり、その友人に化粧も借りつつ使い方も教えてもらうことにして、それはそれは気分がアガってしまい、ニッセンで手当たり次第にかわいい服を買ってみたりして、かわいい服は目に入ると買ってしまう。ましてやニッセンはセール期間中で、半額近い値引きがザックザクと行われていたので、「ここを逃す手はない!」とばかりに財布の紐はゆるくなっていくばかりなのであった。

当日まではドキドキもので、より美しくなりたいと思い、ふだん体調が悪いときも、風邪をひいたりしていても欠かすことのないアルコールを何日も断ってみたり、美容室に予約を入れて、髪をツヤツヤにしようとしてみたり、とにかくものすごい気概にあふれている感じだ。

人間というものはやはり目標があると、なにかと頑張れるのであろう。筋トレも毎日欠かさず行って、当日までを過ごした。

さて当日、美しくなろうとして痩せようとして、食事を少なめにしたのが祟ったか、体が妙にだるい。しかも緊張しており、顔が熱く、動悸がひどい。気分を高めようとしてカフェインを摂ってみたのも裏目に出たか。しかもお腹も下している感じだ。

あまりに普段と違うことをしたものだから身体がびっくりしたのか。まあ女装バー的な場所に行くのはすごいことなので、まあ、そういうこともある。


現地である。

女装バー的な場所にいく前にサイゼに寄ってビールとグラッパを1杯づつ飲んだ。サイゼは最高だな、と思った。

女装バー的な店のある建物は、何の変哲もない雑居ビルという感じで、商業のにおいもしておらず、ここがそういう場所だと事前に知らなければ、スルーしてしまいそうな雰囲気。

そのビルの何階かに行って、女装用の入場券を買って、フロントに提出して、パウダールームで女装して、フロントに女装したのを見せて証明してもらい、そして入館という流れである。

女装していない男と女装した男だと、女装のほうが優遇されるっぽい。たぶん。


化粧を教えてもらった、顔にBBクリームを塗っていく。ひげとかがある口元などは入念に。

ビューラー、アイシャドウ、チーク、アイラッシュ。

本当にカンバスに絵の具を塗っていくような工程に思えて、「女の人はすごいな」と思った。女は全員ダリということでいいのではないだろうか。化粧は油彩画みたいだ。金子國義の絵の人みたいな仕上がりの顔になるし。

結局化粧をするのに1時間ぐらいかかった。顔面はいかにもおかまくさいというか、遠藤ミチロウ経由ハイヒールリンゴ行きのバスのフロントグリルみたいな感じだったと思う。ちょっと自分でも勘弁してほしい仕上がりだった。

これは今後の研究課題になると思う。自分でZipperだのKERA!(もう現存しないのか)の化粧のページを読んで勉強して、自分好みの感じを目指していくしかない。化粧を究めていきたいところだ。まずはダイソーとかで買ってみるといいらしい。


バースペースのソファに座ると、横に出来上がってピカピカしている状態の趙治勲先生のような風貌の酔っぱらいのじじいが座り、何かを喋っているのだけど呂律が回っておらず、なにを言っているのかよくわからない。わたしの手を握るとニコニコしながらズボン越しに股間を触らせようとする。周りの人がたしなめる。

見た目のわりにはニオイはしなくて、身体を入念に洗ってきたのかな。それとも元々清潔な人なのかなとか思う。腹をなでたが、つるつるしていた。意外に嫌悪感はなかった。ただ、わたしに声をかけようとする他の人に絡んだり食って掛かったり、会話中にわたしを引っ張ったりして、酒乱の所業という感じがしていた。

わたしがじじいに腕を引っ張られると、じじいに対して青年が「この娘がケガするかもしれないじゃないですか。危ないですよ。やめましょう」とそれをたしなめた。わたしは「女の子扱いされてる〜ッ!?」みたいな気持ちになったし、じじいをたしなめる青年の顔を、その時ばかりは ときめきトゥナイトの蘭世ちゃんみたいな顔で眺めていたと思う。少女漫画のコマみたいな展開は実在する。

さて、このあともそのジジイから如何にして距離を取るかみたいな感じになり(外に出て居酒屋で飲むか? みたいな感じにもなったけれど、初女装で外はさすがにステージが高すぎるので拒否した。すまん)、その場にいる人たちが色々取りなしてくれた。

常連の男の人たちが(って、その場にいるの全員男じゃん。みたいなツッコミはきっと5000兆回はされたのだろう)、スクラム的に距離をつくってくれた。そういうローカルルールというか、雰囲気があるのだろうな。女性は普段からこういう経験をしているのかい。距離はとれたけど、じじいは帰るということはなく、最終的にも完全なる平和は訪れなかったし、さっきじじいをたしなめてくれた青年は終電だからと帰途についてしまった。せっかく守ってくれたのにろくに会話ひとつ出来ず本当に悪いな、と思った。

連休中ということもあり、地方からやってきた女装さんたちと会話したりして、人間はいろいろだなと思ったし、なんかすごくリラックスして、本当に楽しく会話できた。緊張せず喋れたというか、おなじ女になりたい・女装したい気持ちを持つ者同士、揶揄嘲笑されないという前提条件がそこにあって、それだけで、まるで心が苦しい鎖から解き放たれたような、そんな心地よさを感じた。


さて、翌日は仕事である。0時に魔法が解けるシンデレラよろしく(というと大仰すぎるが)、化粧をとって普段の服に着替えて男に戻って家に帰る時間だ。

じゃあ帰るんで。と言って、席を立ち挨拶をする。じじいにも握手。やはりなぜか嫌悪感はなかった。

なんというか、酔っ払っているところ、呂律が回っていないところ、空気がよめないところ、ルンペン・プロレタリアートを思わせる外見、そして大雑把な年齢とかが死んだ父親に似ているなと思った。

晩年はほぼアルコールのみでカロリーを摂り、膵炎に苦しみ、風呂に入らず異臭を放ち、小便を漏らし、駅で行き倒れになったりして何度も警察の世話になったり、いろいろあったらしいが、父親に似ているなと思った。

きっと父親があの世からちょっと帰ってきたのだろう。お盆だし。

以前にも父親みたいな謎のじじいから地元の駅でいきなり貰いタバコをせがまれたり、たまにこういうことがあるんだ。
そう思うと妙な納得感と、優しい感情があった。

納得しているわたしの手を掴んでいるじじいは、その手を股間へとやった。周りがそれをたしなめた。


このような女装となり、いい体験だった。
また行ってみたい。
今度はじじいがいないといいなと思う。